妊娠と糖鎖
特別に避妊をしないカップルでは2年以内に約90%のカップルが妊娠することが統計的に明らかになっています。従って、2年超妊娠しない状態を不妊(不妊症)と呼んでいますが、先進国では少なくともカップルの10組に1組は不妊(不妊症)で悩んでいます。
精子形成と糖鎖
精子は、精巣のある精細管で作られますが、精子形成は、生殖細胞の幹細胞(未分化精原細胞)が精細管内の刺激により分化精原細胞になりスタートします。
その後、精原細胞が分裂を停止し、分化すると精母細胞になり、支持細胞のセルトリ細胞に接着しながら、精細管から内腔側に移動し、2回の減数分裂を経て、半数体の精子細胞になります。
そして、精子細胞は形を変えて鞭毛を持つ精子になって精細管から輸精管へ、さらに精巣上部へと移動します。精巣では精巣の糖脂質の大部分を占める特異的な硫酸化糖脂質のセミノリピドが精母細胞の初期に合成されます。
この精巣の特異的な糖鎖は生殖細胞とセルトリ細胞間のコミュニケーションに重要な役割を果たしていますので、糖鎖に問題があると卵子と結合して受精卵を作るしっかりとした精子が作られなくなります 。
受精と糖鎖
腔内で射精された数億個もの精子は弱アルカリ性ですので、酸性の腔内で約半数の精子は死滅します。アルカリ性の子宮内にたどり着いた精子は数日間生存し、その後、アルカリ性の卵管内に移動した数十から数百の精子は卵管膨大部で卵丘細胞層で囲まれた卵子と出会います。
精子はヒアルロン酸で架橋されている卵丘細胞層を酵素(ヒアルロニターゼ)によって分解し通過することで卵子を被っているタンパク質層の透明帯と結合します。
その後、精子は透明帯による刺激によって変形し、加水分解酵素で透明帯を分解しながら通り抜けて卵細胞膜と結合・融合し受精が完了します。
タンパク質層の透明帯は複数の糖タンパク質で構成され、この糖タンパク質は精子との結合、精子の形態変化、多精阻止などで重要な役割を果たしています。
受精卵の子宮内膜への着床(妊娠)と糖鎖
受精卵の着床が成立するためには、胚と子宮内膜のそれぞれの条件が合致する必要があります。胚は胚盤胞の段階で着床します。
胚盤胞の内細胞は、将来の胎児となる肺結節になり、外細胞は将来の胎盤となる栄養膜細胞に分化します。一方、子宮内膜は卵巣ホルモンによって「増殖期 -> 分泌期 -> 月経」を繰り返します。分泌期に属する胚受容期にのみ胚を受け入れることが可能となり、この時期に子宮内膜上皮にL-セレクチンと結合する糖鎖が増えます。
そして、胚盤胞表面の栄養膜細胞によって発現したL-セレクチンと糖鎖リガンドとの結合により、着床の初期における子宮内膜上皮と胚の接着が可能となります。