認知症と糖鎖(アルツハイマー病と糖鎖)
認知症(特に老人性認知症)の主要な原因疾患であるアルツハイマー症(AD)。人間は長生きを望みますが、長生きすればするほど、アルツハイマー症が発症するリスクは高まります。その数は少なくなく国内だけでアルツハイマー症の患者数は約200万人と推定されています。
アルツハイマー発症のプロセス
アルツハイマー症は脳の神経細胞の周りにアミロイドベータ(Aβ)と呼ばれるタンパク質が重合してアミロイド線維になり、更にそれらが集合して老人斑という塊になって、神経細胞の機能を阻害する病気です。Aβは正常な生命活動の副産物としてある程度、不可避的に発生し、通常40歳前後から蓄積が始まり加齢と共に加速します。
アミロイド前駆体タンパク質(APP)は脳の記憶などの活動に重要な役割を果たすタンパク質で、通常は役割を終えるとAPP分解酵素によって速やかに分解処理されリサイクルされます。ところが、APPがAPP分解酵素に似ているが別の働きをする酵素βセレクターゼ(βACE1)によって時々、間違って分解されることがあり、その時にAPPはAβになります。健常者の脳ではAβは蓄積されず、脳内で分解されるか脳外へ排出されます。しかし、Aβは粘着性が強く、お互いに絡み合って神経細胞の間に入り込み、神経細胞の機能が阻害されアルツハイマー症が発症することがあります。
βセレクターゼ(βACE1)の二面性
今までは、βACE1はAβを作り出す病的な作用しか発見されていませんでした。ところが理化学研究所の研究グループによってβACE1が糖鎖を合成するシアル酸転移酵素を切断することによって、糖鎖の合成を調整している事が世界で初めて発見されました。
この切断が起こると、シアル酸の転移が行われず、細胞膜表面のシアル酸を含む糖鎖が減少する事も示されました。つまり、βACE1がシアル酸を付加するか否かのスイッチの役割を果たし、シアル酸転移酵素によるシアル酸の付加量を調整していると考えられます。
以前より、抗体を作るB細胞では、シアル酸が適当量存在している事が重要で、その量をコントロールするためにシアル酸転移酵素の働きが大切である事は知られています。従って、アルツハイマー病の治療のためにβACE1の作用を抑制しすぎると抗体が正常に作られなくなり、重い感染症を発症する可能性が高くなります。しかし、予め感染症に対する対策を講じる事で、この副作用は未然に予防できると考えられています。
アミロイドベータ(Aβ)の蓄積を加速する要因
加齢以外に特定の人により速くAβが蓄積する要因としては、「1.糖尿病(予備軍も含む)2. 飲酒(1日に日本酒2合以上)3. 喫煙(1日1箱以上)」が考えられます。
糖尿病の人は、そうでない人にくらべてアルツハイマー症になるリスクが4.6倍も高いと発表されています(九州大学医学部 清原教授 2000年)。さらに厚労省の発表(2008年4月30日)によれば2006年度の糖尿病(予備軍も含む)は1,870万人と推定されています。
飲酒(1日に日本酒2合以上)はそうでない人にくらべアルツハイマー症を4、8年速く発症するようです。喫煙(1日1箱以上)はそうでない人にくらべ2、3年速く発症すると発表されています。さらに飲酒と喫煙が重なると6~7年速く発症するとのことです(2008年 米国 神経医学界年会)。
誰でも簡単に実践できる予防策として、マグロやサンマ、サバ、イワシなどの青魚からDHAを摂取することです。DHAの摂取によって作られるLR11(タンパク質)がAβを分解しその蓄積を妨げます。ただし、すでに進行したアルツハイマー症の患者では、効果は発揮できないかもしれないと発表されています(2008年1月 UCLA医学部)。
アルツハイマー病と糖鎖は続きで説明します。
1 / 2