癌と糖鎖 / 癌の転移に対する考え方の続きです。
細胞の癌化に伴う糖鎖の変化
細胞の癌化に伴って糖鎖異常をもたらすメカニズムは「糖鎖不全現象/糖鎖の新規発現誘導」の2つが1980年代から定式化されています(ワシントン大学 箱守仙一郎博士)。
- 糖鎖不全現象とは
糖鎖不全現象とは、正常細胞で本来発現すべき複雑な構造を持つ糖鎖が癌細胞で阻害され正常細胞よりも単純な構造の糖鎖が癌細胞で蓄積される現象をいいます。
- 糖鎖の新規発現誘導とは
糖鎖の新規発現誘導とは、細胞の癌化によって正常組織では必ずしも顕在化していない特定の糖鎖が活性化され、その発現が進行する現象をいいます。
転移性の高い癌細胞の糖鎖の作られ方
癌細胞は癌化した後も遺伝子変異を繰り返し、より悪性度の高い高転移性の癌細胞に変化することがあります。そして、血行性転移が起きるとなかなか治療は困難になります。
癌の血行性転移では、癌細胞が転移先の血管壁への接着が、癌細胞の表面にある特定の糖鎖を介してなされることはすでに明らかになっていました。この特定の糖鎖は正常細胞には少なく、癌細胞に多く発現します。血管壁に接着しやすい糖鎖が癌細胞に多く出現する原因は低酸素誘導因子(HIF-1)という転写因子の働きによることが判明しました。
癌細胞は、ほぼ無限に増殖しますが、癌細胞の病巣では必ず酸素不足の部位があります。このような部位では、酸素不足に対する抵抗力を強くする低酸素誘導因子が突然変異により多く発現する能力を獲得した癌細胞だけが増殖します。
この転写因子が血管壁に接着しやすい糖鎖を作る遺伝子の発現を強力に誘導して、高転移性癌細胞になることが明らかになりました。転移性の高い癌細胞の糖鎖に単糖を1つ付加することで糖鎖を悪玉から善玉に変化させることにマウスの実験で成功しています。
つまり、原発巣の癌細胞同士が結合力を増し、血液中に癌細胞が流れ出ることが少なくなり、仮に流れ出ても、血管壁にくっつきにくい性質に変わり、他組織に侵入する事が少なくなります。